「ゆっくり練習」の落とし穴
前回は「片手練習」について気をつけなければいけないことを書きましたが、今回は「ゆっくり」練習についてです。
ある程度の速度のある曲は、最初から本当の速さで弾くことはできない。それはなぜか。「耳」も「運動」も「神経」も速度に追い付いていないからです。ですから「耳」「運動」「神経」が追い付いた状態で弾くために、ゆっくり練習します。ゆっくりだと、だらだらとでも弾けてしまう、それがゆっくり練習の落とし穴です。やってしまうと「だらだら」弾くための練習になってしまいます。
ゆっくりの時に
1.速く弾くことを想定した弾き方をしているかどうか
2.音楽的なよい歌い方をしているかどうか
たとえば、速いパッセージをゆっくり練習するときに、ゆっくりだからと言って腕から打鍵する練習をしても、速いテンポではその動きは使えないでしょう。また、速いパッセージに濃密な歌い方はそぐわないでしょう。
かといって、速いテンポなりによいニュアンスは必要です。2.については1.をよく考えた上で、どのような歌い方が本来のテンポで生きてくるかを想定しながら丁寧に練習します。
ゆっくりの時に「どの瞬間に何を考え、何を用意するのか」を観察するように弾くといいと思います。ある瞬間に「次の音」のことを考えこの休符」の時に次の和音の準備を手がする。この瞬間につぎのピアニッシモの準備をする、など、これは楽譜には書いてありませんが、速く弾く時は自分の中では「リズム」としてとらえられると思います。
タッチは軽く、速く弾く時にはタッチが軽くないと速度についていかないので、音の粒をそろえるのも丁寧に、歌い方はどうしても間延びしやすいのですが、長いフレーズをよく感じてゆったり歌うといいです。
また、指や手に「動きの道筋を丁寧に教える」のもゆっくり練習する目的の一つです。
最後に忘れてはいけないことは、テンポ、リズムを正確に、だらだら弾かずによいニュアンスで弾くこと。時速100キロで走る車が時速20キロで点検しながら走っています。絶えず「時速100キロでうまく弾けるか」を頭の片隅に置いて、いろいろなことを点検するといいと思います。時々ちょっと部分的に速くしてみて、本当にゆっくり練習が生きているか、また、どの点が足りないか確かめて、再びゆっくり練習に戻るというのもやってみるといいと思います。