「今ここにいない」のこと

ピアノを弾く、ということは大抵は一人での仕事です。黙々と楽譜とにらめっこし、ああでもない、こうでもない、と思いつつ練習を進めていきます。
「孤独」ということに思われるかもしれませんが、そこにはもう一つの「人格」があることに気がつきます。
私は、バッハ、ベートーヴェン、ショパンといった今から200年以上前の作品を多く相手にしていますが、彼らの書いた「楽譜」は、その人その人の「言葉」のように思います。もうすでに「今ここにいない人」との対話です。何か特別なことのように思われるかもしれません。楽譜というものは、わけのわからないおたまじゃくしが模様のように五線の間を這っているようにしか見えないかもしれません。読み解けるようになるにはそれ相当の訓練がいることも事実です。
でもじつは夏目漱石や芥川龍之介を読むのと同じ、読んでいて無意識のうちに、作中人物や作者と対話しているのです。
楽譜からその人その人の文章の運びやこだわり、肉声が聞こえてくるような気がします。「ここにいない」人の意識が、紙の向こうから私たちに伝わってくる。それは、文学作品を夢中で読むときの気持ちです。今ここにいない」から「今ここにいる」ことに気がつくことが、私たちを豊かにするキーワードのようにも思います。

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「今ここにいない」のこと” に対して1件のコメントがあります。

  1. たーぼ より:

    大竹先生、こんばんは
    大竹先生、こんばんは

     ここでの先生のお話も、これまで私がコメントをさせていただいたときの先生の日記本文のご主張の延長線上にある内容だと感じています。

     彼ら音楽の先人たちが残したものを、洋の東西を問わず後世の人間たちが様々に味わっているわけです。それらのメッセージを受け取り理解することは、実は簡単なようでいて大変難しいということをしっかりと踏まえて考える必要があると私は思っています。
     聴くだけならシンプルですが、いかに聴くかが次の段階にステップアップするカギになってきますので。深めようと思えばかなり深遠な話になりますが、これが「対話」の醍醐味でしょうね。

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