バッハ:インベンション第1番
まず、最初の休符を気にしてみましょう。①
平均律クラヴィーア曲集第1巻第5番のテーマと比較します。インベンションは16分休符ですが、平均律は4分休符です。
この休符でため込んだエネルギーの違いが、5度の上行か6度の上行かになって出ています。(aとb)一拍の休符でエネルギーをたくさんためて勢いをつけて駆け上がる平均律のテーマは6度上行し、転調しています。インベンションはそこまでエネルギーをため込んでいませんので(16分休符)転調せずに上行しています。(cとd)確かに、インベンションのほうのテーマでフーガを作ろうとすると、できないことはないですが、ちょっと力不足かな、という感じも受けます。②
次に、③について考えます。ここで○を囲った音形は、テーマを上に引っ張り上げています。というのももしこれが一オクターブ低かったらおそらくどんどん下降してしまうだろう、と思います。○はテーマを引っ張り上げる役割があり、そのためのパワーを持って弾かなければいけない、ということになります。
このように、音符や休符には力があり、楽譜からそれを読み取り演奏に反映させていかなければならないと思いまインベンションの学習で「テーマを出す」ことは必要ですが、テーマ以外の要素がどのような力を持ってどちらに動こうとしているか、他の声部にどのような影響を与えているかを見定めることはとても重要です。④のような演奏はどうもいただけません。