ツェルニー30番の第1番を指定のテンポで弾いてみた
まず、第1番を指定のテンポで弾いてみました。初心者の場合このテンポで弾くことはほとんどないでしょう。しかし熟練者には「演奏可能な」テンポです。
このテンポ指定は、異常に速いと思われます。ツェルニー30番の批判に「和声的に貧相である」というのがありますが、このテンポでこのような曲ならば、確かに和声的に貧相になってしまうかな、という気もします。
もうひとつ気になるのは、「狭めた手のポジションが基本で、なおかつ移動が少ない」ことです。ポジションの移動が少ないと、ゆっくりの時は「鍵盤の場所を探さずに済む」という易しさにつながりますが、この指定のテンポでは、「ポジションの移動のなさが、弾きにくさを作っている」といえます。狭い指の間でちょこまか動かす箇所が多い。むしろ40番のほうが弾きやすい点もあります。
「指定のテンポ」で弾いてみると、このように「初心者がゆっくり」弾くのとは違った難しさが出てきます。ツェルニー30番は「指を速く動かす」ことに特化した練習曲である。この個所などはショパンの25-2のほうが楽な気もします。
そこで、私の疑問。「ツェルニー30番は、本当に初心者のための教材か?」ここから考える必要があるかも。「czernyc_nr.1.mp3」をダウンロード
「
ハイフィンガー」との問題
一昔前、日本のピアノ界に「ハイフィンガー」という弾き方がありました。
ハイフィンガーのポジションにした場合、手はあまり広がりません。そうするとこのような「狭い鍵盤のポジション」で弾くのにちょうどよくなってしまいます。ショパンが自然に指を伸ばし、2,3,4指を黒鍵の上に乗せたポジションを基本にしたのとは対称的です。「ハイフィンガーでもゆっくりのテンポだったら何とか弾けてしまう」楽曲であるといえます。
「ポジションの狭さ、移動の少なさ」が果たして必ずしも初心者によいのか。再考する必要はあります。と言って「やたらポジションを変えたり、移動したり」することは、初心者にとって負担になります。そのことからも「ツェルニーに凝り固まってしまう」のは問題だと思います。「いいところだけをひろってあとは他の楽曲で大いに補う」この姿勢はここでも必要です。
伴奏部分について
前も述べたように、明らかに「特化」した練習曲なので、和声的には最低限の変化だと思われます。ですから、初心者に基本のハーモニーを学ぶにはいいと思われます。しかし実際は「伴奏は静かに弾けば一応きれい」に聞こえるので、その感覚のままバッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、ショパンなどを弾くと「全く物足りない」と感じます。つまりここでも「どっぷりつかりすぎる」と問題が起きます。
コンクールなどで多くの子供たちの演奏を聴くのですが、対位法的に奥行きのある演奏をしている人が少ないのは、この辺りに引っかかってしまっているのかな、という気がします。
これらの「マイナス点」を補正するのは、やはり指導者しかいません。ツェルニーのプラス点については今まで語りつくされてきましたから、よく吟味して「導いて」行くことが重要です。
妥協案としては、様々な練習曲を交互にやっていく、というのがあります。ヤマハミュージックメディアから出版されているシリーズは、この辺のことを配慮したものと言えます。