科学的手法を使う。モーツァルトを抽出する
1.モーツァルトを「抽出」する =科学的思考法を音楽に取り入れる=
例えば、遺伝子で(私はこのようなことに全く疎いのに、この例を出すのはどうかと思うが)①の組み合わせがあるとしましょう。それを②や③の組み合わせに変えたら、違う反応や状態が起こります。それがなぜか考察してみましょう。
このような実験、思考の仕方は、科学の世界では当たり前にされています。
組み合わせ①→AB
組み合わせ②→AC
組み合わせ③→AD
①と②の印象の差は「BとCの何が違うか」によって起こります。するとここで「音楽の中の事象」と「その結果起きる印象」との相関関係を築くことができます。
さてここで、このような実験のしやすい課題があります。Mozart
W.A. の12の変奏曲 K.265通称・きらきら星変奏曲のテーマです。
なぜなら、テーマは単純明快で誰でも知っています。小学生でも「きらきら星」を書きなさい、と言ったら、まずこのように書くでしょう。「モーツァルトの完全な創作」の部分を完全に分離できます。①におけるAが「誰でも同じことを書く」きらきら星の部分、赤で囲った部分がB「明らかなモーツァルトの創作部分」です。このBの部分をCやDにおきかえてみることにより、「モーツァルトの創作部分」にどのような音楽表現上の特徴があるのかがはっきりします。
まず、少しだけ変えてみました。→①
これはどのように感じますか。おそらく、「広がりがない」とか「こぢんまりしすぎている」と感じるのでは、と思います。するとこのBとCの差、バス音を置くこと、跳躍をすることの役割が見えてきます。これは、実際の演奏に還元できます。つまりこの「差違」の部分をはっきり示すと、「広がりがある」表現につながるはずです。他の楽曲の類似の箇所に、そのようなアイデアを盛り込むことも可能です。
では、1オクターブ下げてみました。→②
今度はおそらく、「よそよそしい」「空虚な」感じがするでしょう。そこで「なぜモーツァルトはこの音域を選んだか」が見えてくきます。
次は・・・・③
ちょっとくどい感じがすると思います。主旋律とのバランスがとりにくいです。ここで気がつくことですが、モーツァルトは、変奏で伴奏部分の音が増えた場合、主旋律に和音を足して補強しています。(第2変奏など④)
もちろん、ただ「右手を補強した」だけではない工夫があります。この変奏も、論じる価値があります。
今度は左手パートを和音のみにしてみました。躍動感もない。⑤
⑥次のようにしてみると、中央Cの音が「安定」を作っている。オルガン点だと言うことがはっきりする。
つまり、「適度な躍動感」や「広がり」「安定」「バランス」などがこの「モーツァルトの創作部分」に込められており、それぞれを「強調して」演奏すると、その効果は増すはずです。このように、様々に変化させて、オリジナルとの「差違」を考えると、曲の構造やある特定の音や程、リズムなどの役割がよりはっきりします。また、他の楽曲の類似の箇所(モーツァルトとは限りません。様々な時代の楽曲です)に、応用がききます。たとえば演奏時に「深みがない」とか「躍動感がない」「安定していない」などといったときに、このように得た要素を考えた上で、演奏の仕方を検討することができます。
ただ、これらを本当の意味で「科学的」といえるかどうかは、大変疑問が残ります。というのも「反応」は、私たちの心の中のことであります。
いわば「リトマス試験紙」であるのは、「私たちの聴覚と、それから呼び起こされる感覚、感情」なのです。