「家ではできたのに」を考察する
レッスン生がレッスンに来てピアノを弾く。うまくいかない時のいいわけに「家ではできたのに」というのがある。これを考察する必要があると思う。というのも、単に「生徒の家での練習の仕方が甘い」のではなく、生徒の練習の組み立て方、音楽の聴き方に重要な問題が内包している場合がある。また、これをあぶりだすことによって、より創造的なピアノ練習=演奏へ導く手掛かりになるかもしれない。
「自宅で練習しているときに出る甘さ」についてよくあることを考えてみた。
①つっかえ癖
必ず同じ所で止まってしまう。間違えた音を弾く。そこで止めて正しい音を弾いて次へ進む。これはよく見ると「曲の前後がつながっていない」さらに、何度もこれで練習すると、「つながっていないことに気がつかなくなる」
②その場しのぎの修正
間違えた個所だけを、無理やり捻じ曲げてとってつけたように修正する。②-1 AとBにストレスがかかり、不自然な流れになる。バランスを崩し、他のミスも誘発する。本来は②-2 のように自然なラインを描いて、正しい線を通るようにする。教師は分岐点である「C点」を見抜いていないといけない。正しく弾くための分岐点はAではなくCである。
この場合、本来は〇を通ることよりも、なだらかな山を書くことの方が大切な場合が多い。具体的に言うと、〇はファに♯をつけること。なだらかな山はそこがト長調であること。ファに♯をとってつけるよりも、曲のその部分がト長調であることを感じて弾くことのほうが、はるかに重要である。
バッハ:インベンション1番の譜例参照。
当然「これらを防ぐ」練習方法はある。
1.譜読みから音楽の流れを大切にする。止まり癖防止のため、譜読み段階でメトロノームを使用する。
「つっかえたらおかしい」と感じるから「つっかえなくする」のだから最初から「つっかえたらおかしい」状態で練習する。きめられたまとまりをゆっくりでよいから止まらずに、「音楽的に」弾く。「音楽的に」弾くことを後回しにすると「つっかえてもつっかえなくてもたいして印象が変わらない」ので悪い方に転ぶことが多い。
2.本当の原因を知る
音間違いは、たいていの場合「調に対する認識」「和声に対する認識」の欠如である。音を直すだけでなくレッスンで生徒が「調の変化によるテンションの変化」を認識したかどうかをよく確かめる。音間違いでいちばん多いのは「転調した時の導音」だと思われる。その「導音」ヘ行くフレーズ、経過をよく感じさせる。
委縮について
「先生の前で委縮する」ことはよくあると思う。細かいことをしようとしすぎて、身を守るように身を小さくしてしまう。解決としては、「姿勢をよくする」「肩のポイントを意識する」「深呼吸をする」「テンポをひとまわりゆったりする」また、過重に、うまくいかない個所に意識が向いて硬くなってうまくいかなくなっていることがある。この時には「意識を移す」ことをするとよい結果が得られることがある。以下を参照していただけるといいと思う。
私は、レッスンの現場でこそ「深く理解」させ「成功体験」を積ませることが最も重要だと考えている。
補足
大切なことを忘れていました。練習に関することです。
「できた!」というのはとても大切ですが、それは3000回やってやっと登りついた頂上です。「いつでもできるか、身についているか」と言うと疑問が残ります。そこで「できてからが練習」だと言えないでしょうか?「できたもの」を当たり前にして、自分の「身の内」にあるものとする。それを先生も生徒も知っていれば、「家ではできたのに」は減ると思います。