シューマンの完全4度C-F

赤松林太郎先生がシューマン、幻想小曲集の「夜に」における完全4度を提示しました。
「C-Fの完全4度はシューマンの常套句。長調で使用されると夢になるが、短調では悪夢になる。『夜に』はまさにロマン派的な苦悩だが、ヘ長調を迎える中間部で、あの『トロイメライ』が実に際どいところで均衡を保っている夢であることに気づく。」
と述べています。そこで私は、「完全4度の跳躍」について考察してみました。私は「赤松先生から宿題をいただいた」わけです。
まず、譜例1 ヘ長調の音階です。これを見ていただけるとおわかりいただけると思いますが「完全4度」の跳躍は「属音」→「主音」となります。これが①です。ところが属音というのはもともと「主音から完全5度上がって」います。つまり「属音」には「主音から5度上がった」エネルギーが内包されています。それでさらに間の音をすっ飛ばして主音まで上がることができます。
「属音」のあった下方の音階のグループから、主音から始まる上方の音階のグループに上がります。ここで「広がりを感じる」ことができます。譜例2「属音→主音」の完全4度跳躍④は、2オクターブの広がりを感じさせます。つまり属音の内包したエネルギーは一つ上の主音へ登り、なおかつその「新しいステージ⑤」で「自由に歌おう」とします。これが「トロイメライ」です。もちろんここでは⑥における「6度の支え」があります。
ところで、「夜に」です。譜例3でおわかりのようにここのモチーフは属音まで上がらずに引き返してきています。「4度跳躍で得たエネルギー」を持ちながら上に行こうとしても行けないもどかしさがここにはあります。これがこの曲のテーマの一つなのではないだろうか「恋する人に会いに泳いでいってもなかなか思うように進まない」という表現を、シューマンはここでうまく表現しています。
「トロイメライ」は上がったステージで豊かな歌を繰り広げるが、「夜に」は上がったステージで歌うことができない。焦り。そのような「音楽の内容に即した」音の扱いをシューマンはしているのでは、と思います。

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