ピアノの楽譜は省略されている

私たちは何も疑問を持たず、ピアノに向かい、書いてある音を弾きます。ところがある日このようなことを考えました。「演奏者が考えるべき音は、書いてある音だけだろうか?」
ベートーヴェンのソナタ第15番冒頭です。①15
ここで左手は四分音符でDを慣らし続けます。もしこの曲がオーケストラだったら、四分音符だけでなくタイのかかった長いD音が必ず存在すると思われます。おそらく四分音符はティンパニーが弱音で刻み続け、低音楽器が長いD音を弾くでしょう。とすると、ピアノにおける楽譜では「長いD音」は省略されているということになります。「この長いD音」を考えているかどうかで、演奏が変わってくるはずです。おそらく「長いD音」を考えないと、拍節を強調しすぎる演奏に陥ると思います。
演奏者は「長いD音」を心に響かせ、あるつもりで弾くと、拍節を刻みすぎずにゆったりしたD音に包まれて演奏することができると思います。つまりこの「長いD音」は、「オーケストラからピアノに編曲するときに省略される音」だということです。
ここで、あえて「ソナタをオーケストラのピアノ編曲」ととらえることに抵抗を感じるかもしれませんが、「もしオーケストラ曲だったら」という想像のもとにピアノ曲を弾くことは、豊かな結果を出すことになるので、大いに行うべきです。
以前、ショパンのバラード第2番を使って、「音になっているのは氷山の一角」だということを書きましたが、さらにこのような具体的な音がピアノでは「省略されて」いるかもしれません。
このような見方は、楽譜の読み方も変えていきます。Photo
バッハのパルティータ第1番や、平均律第2巻 15番の右手のパートをジグザグに読むのは間違っています。連打される音は、「長い音」なのです。215

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