ブルグミュラー・スラーの問題

25の練習曲 作品100より 6.進歩

この2つ、スラーのかけ方が違います。Aは1852年ショット社のもの、Bはペータース版で、1903年ごろの後発の楽譜です。
おそらくBのほうが見慣れているのでは、と思います。しかし、もともとはAだったようです。日本のちょっと前の楽譜は、ペータース版の移しであることが大変多いです。
ウィーン原典版(種田直之・校訂)はAと同じです。

さて、この2つの意味するところは、変わってきてしまいます。また練習曲として「習得する内容」も違ってきます。
以下は、種田直之先生の注釈です
スラーとアーティキュレーション
18世紀以降の器楽曲では、スラーはまず弦楽器の演奏の指示記号として用いられたことを理解されたい。 いくつかの音符に掛けられたスラーは、この音符すべてをひと弓で弾くこと、また2つのスラーが前後に続けて用いられている時はその間に弓の方向を変えることを意味していた。この場合スラーはいまだにそれだけでは音楽の一単位。すなわちフレーズとはなっていない。
19世紀の中頃から、楽譜を編集する人たちは、上述のスラーを編集者の考えによる音楽の構成を表すための記号として変更することをためらわなくなった。その結果として、現在でもまだ多くのピアノ教育者に信じられている弾き方、すなわちスラーの最後で音を切るという法則が広まってしまった。こういうわけで、のちの編集者がスラーをまったく新しく書き換え、短いスラーの代りに長いスラーにするというふうになった。
原曲どおりのスラーの印刷されているこの版を使うに当っては、スラーというものが初めはどういう意味を持っていたかを生徒にわからせる必要がある。

すると、1903年ごろのペータース版の編集者Adolf Ruthardt (1849-1934)氏は

ではなく

であると言いたかったのだとおもいます。これが、ここでは「音楽的なまとまりの変更」になってしまった。
スラーが「フレーズの切れ目を表していない。スラーの最後で音を切らない」のであったら

となります。今井顕先生の版(東音企画2019年)にはこの赤いスラーも同時に書かれています。
この場合「曲の意味が大きく変わってくる」と考えられます。

このような見方を導入すると「前半2小節、後半2小節」のまとまりが、かなりはっきりします。これは譜例Bを演奏するものと、まるで違って聴こえます。するともともと「前半2小節の上行」と「後半2小節の下行」の対比が、ここでの練習課題なのでは、と思われます。
以下は、モーツァルトのソナタKv332です。

これを

のように弾くとは音楽的に考えられないです。
このように、もともとあった楽譜の読み方が忘れられて、改変しているうちにわからなくなったことは、多いのかもしれません。

そういえば、ブルグミュラーの「もともと書かれていたテンポが速いのではないか」という指摘があります。私も確かに速すぎる。と思います。「指の練習」ならともかくこれらは「情緒的な表現や情景を表現するべく、タイトルのついた練習曲」ですから、ただ指が速く動けばいい速く弾ければいい、というのではないはずです。「タイトルの持つ情景や情緒を表現しよう」と思ったら、あまりに速すぎるテンポが多いです。

以下はやはり種田直之先生の注釈です。
テンポ
各曲の初めに括弧内に配されているメトロノームのテンポは初版に印刷されているものである。しかし、この速さを守って弾くと私たちにとっては大体いつもテンポが速すぎる。このことはチェルニーやクレメンティの練習曲、その他19世紀に書かれた多くの教育用作品にも当てはまる。 19世紀初め頃のメトロノームの数についての根本的な問題は多くの熱心な研究者によって調査されたけれども、今のところまだ解決されていない。
テンポは原則として曲の性格と生徒の能力に応じたものでなければならない。 曲の習い始めには先生は生徒に中程度でなく極端に遅いテンポを選ばせることに躊躇するべきではない。 このテンポはすべての課題を習得し解決してゆくに従って徐々に速くして、最後には適切なテンポに達するのがよい。 しかし、いちど到達した音楽的な水準が、より速いテンポによってふたたび破壊されてはならない。

種田先生の記述は1990年頃です。それからあと30年、この「テンポが速すぎる」問題が、根本的に解決されたとは聞きません。種田先生の版も今井先生の版も、初版のメトロノーム表示と、ご自身が感じる、演奏に適正とおもわれるメトロノーム表示が書かれています。

ただし、たしかに、資料を読み解くと、こうなのだと思いますが、コンクールなどの審査の点数には、反映させてはいけないと思います。

Aの楽譜
編集者 First edition (reprint)
出版社情報:Mainz: Schott, n.d.[1852]. Plate 11509.

Bの楽譜
編集者 Adolf Ruthardt (1849-1934)
出版社情報:Leipzig: C.F. Peters, n.d.(ca.1903). Plate 8906.
Reissue – Frankfurt: Edition Peters, n.d.(after 1950).

Cの楽譜
編集者:種田直之 (1933-2011)
出版社情報:Wiener: Wiener Urtext Edition, 1990. Plate 50130.(音楽之友社)

その他の参考楽譜
編集者:今井顕
出版社:東音企画(2019)

1851年出版のBenit ainé社の楽譜はこちら(プレート番号410B)パリで出版

1852年出版のSchott社の楽譜はこちら(プレート番号11509)マインツで出版

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